歯科医師棚の固定くらいいつかしておけばいいかな…
大きな地震のニュースをみたり、実際に揺れを感じた時に、「いつか院内の棚も固定しないといけないな……」と思っている院長先生へ。
その「いつか」が、実は一番のリスクかもしれません。
少しだけ、想像してみてください。
大きな揺れが来た瞬間——棚の上に置かれていた重さ3kgの石膏袋が、鋭利なスケーラーが、劇薬の入ったガラス瓶が、「時速40kmの凶器」となって空中を飛ぶ姿を。
実は、落下物が人に当たる速度はこれほど速い。
そして歯科医院は、一般のオフィスに比べて「重い・鋭い・割れやすい」ものが密集している、特殊な空間です。
それでも多くの医院では、器具は棚の上段に、薬剤はガラス戸の中に、そして通路の隅には「とりあえず」の段ボールが積まれたまま、今日も診療が続いています。
「固定していないから危ない」のではありません。
「何が、どこに、どれだけあるか」を見直さない限り、固定してもケガは防げないのです。
今回は、お金も工事も必要なく、今日からスタッフ全員で取り組める「ケガをしない院内」をつくるための3つの鉄則をお伝えします。
ケガをしない院内をつくるための3つの鉄則


鉄則1|頭より高い位置に「重いもの・割れもの」を置かない


なぜ危険なのか
地震の揺れは、棚の上にあるものを「投げ飛ばす」ように動かします。
予備の石膏袋、重い機材の箱、ガラス容器に入った薬剤——これらが頭上から落下したとき、中身が飛散し、破片が散乱します。
固定されていない棚であれば倒壊も加わります。
致命的なケガの多くは「上から落ちてきたもの」によるものです。
今すぐできる改善
具体的には、
- 予備の石膏・印象材などの粉末系材料
→腰より低い棚か床に近い引き出しへ - 重い機材・器具の予備品
→最下段に移動 - ガラス容器に入った薬剤
→割れにくい容器への移し替えも検討しながら、まず低い位置へ
このルール一つで、揺れた時に「落ちてこない」環境が整います。
腰より上には軽いもの、腰より下には重いもの
棚を固定する前に、まずここからです。
鉄則2|通路と非常口は「在庫置き場」にしない


なぜ危険なのか
「とりあえずここに」と廊下の隅に置かれた段ボール。
非常口の前に積まれた消耗品の在庫。
平常時は「ちょっと邪魔だな」で済んでいても、停電の暗闇の中では別の話です。
足元の荷物につまずいて転倒する。非常口が開かない。煙や有害なガスが発生した場合に逃げ遅れる。
通路の「ちょっと」が、有事には致命的な障害になります。
今すぐできる改善
- 廊下・通路・非常口の前に置かれているものをすべて書き出す
- 「一時置き」になっているものを定位置に戻すか、処分する
- 非常口から出口まで、目をつぶっても歩けるかどうかを実際に確認する
在庫はできる限り収納庫の中に収まる量だけにする、という上限を設けることも有効なルールの1つです。
理想は「0秒で逃げられる道」の確保
鉄則3|「何をどこに入れるか」で棚を使いこなす


「余白を作れば安全」は半分正解、半分危ない
棚の転倒防止という観点では、上段をぎっしり詰めることで重心が上がり、かえって倒れやすくなるリスクがあります。
一方で、完全に空にすれば軽くなって安定しやすい面もある。
実際のところ、「余白があればいい」「詰めればいい」という単純な話ではありません。
では、現場で本当に機能する収納とは何か。
それは「重さの配置」と「出し入れのしやすさ」を両立させることです。
なぜ「出し入れしやすさ」が防災につながるのか
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた棚では、必要なものを取り出すたびに他のものがずれ、崩れ、気づかないうちに不安定な積み方になっていきます。
「取り出しにくい=乱れやすい=有事に飛び出しやすい」という連鎖が生まれるのです。
日常的に出し入れしやすい状態を保つことが、結果として棚の安全を維持することになります。
今すぐできる改善
- 上段には軽いもの・下段には重いもの(鉄則1と連動)
これが棚の重心を安定させる基本 - よく使うものは取り出しやすい高さ・奥行きに
無理な体勢で取り出す必要がない配置にする - 1年以上使っていない機材・備品
処分または別保管を検討し、日常動線から外す - 在庫の上限を「この棚に入る分だけ」と物理的に決める
詰め込みすぎを防ぐ仕組みをつくる
「整理された棚」は、スタッフが無意識に安全を維持できる環境そのものです。
まとめ|本当の防災は「厳選」から始まる


耐震工事や固定金具は、使用物品の厳選つまり整理が終わった後にこそ意味を持ちます。
中身が凶器になる環境のまま棚を固定しても、通路に物が積まれたままでは、対策の効果は半減します。
お金も工事も必要ありません。
必要なのは、不要なものを手放す判断と、スタッフで共有するルールです。
安全な環境は、余分なものを見直す一歩から生まれます。
固定金具を買いに行く前に、ぜひ院内をもう一度「これは本当に診療で使うのか」と視点で見渡してみてください。
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